ノミ・マダニ駆除剤の準備はお済みですか?多くの病原体を媒介するマダニについて、正しい知識を身に着け、しっかり対策し快適に温暖な季節を過ごしていきましょう。前回の「【獣医師監修】犬のノミ対策の基本」に続き、この記事では「マダニ」についての基本知識や感染症、マダニがつく前にできる対策について解説します。監修はクロス動物医療センターの伊藤医師です。
マダニってどんな虫?ダニとの違いは?
マダニは、普段私たちが耳にするダニとは別の種類で、比較的大型です。大きさは1-5mm程あり、肉眼で見つけることができます。主に屋外で生活しており、野生動物が出没する山奥や畑などに生息します。一方、ダニは1mmに満たない程の大きさで、とても小さいため肉眼で捉えることが難しいです。主に屋内で生息し、アレルギーの原因となるチリダニや、人の血も吸うイエダニ等が種類として挙げられます。ノミと同様、マダニも凄まじい繁殖力を持ち、条件が整えば1匹あたり1カ月で2,000から3,000個の卵を生むともいわれています。
イヌへの寄生は、お散歩などの外出先でマダニに咬まれることにより成立します。マダニは先にお話した山奥や畑だけでなく、川辺や河川敷、歩道の茂みや公園のグリーンゾーンなどあらゆる草むらに生息しているため、愛犬と外出するときはそういったエリアに立ち入らないよう気を付けることが大切です。
マダニの寄生によって発症する症状や疾患
マダニは、犬の体に張り付いて血液を吸います。マダニは一度寄生すると、数時間から数十日間に渡って吸血し 続けるため、ノミが寄生したときと同様、貧血となったり、唾液がアレルゲンとなってアレルギー性皮膚炎を引き起こすことがあります。また、マダニが病原菌となって以下のような感染症にかかってしまうこともあり、注意が必要です。
- バベシア症
バベシアという原虫によって引き起こされる病気で、マダニを媒介に感染します。40度を超える発熱や重度の貧血、黄疸や血尿などの症状が現れます。
- エールリヒア症
重要なマダニを媒介とする感染症のひとつで、複数のエールリヒア属リケッチア(動物や人の細胞内で増殖する細菌)によって引き起こされます。感染してしまうと、発熱やリンパ節の腫脹、出血などが見られ、治療が遅れると死に至る可能性もある恐ろしい病気です。
- ライム病
ライム病は、人も罹ることのあるボレリアという細菌に感染する病気です。マダニが吸血する際に媒介し、症状が認められることは稀ですが、発症した場合によくみられる症状としては関節炎や食欲不振、発熱が挙げられます。
犬から人への感染も?「SFTS」ウイルス感染症
犬だけでなく、マダニが原因となって発症する感染症には人間が感染するものもあります。先に紹介したライム病や日本紅斑熱(にほんこうはんねつ)をはじめとし、人間が感染すると死に至る可能性がある疾患としては、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)が代表的です。
このウイルスは人間への感染が認められてきましたが、2017年に初めて猫や犬など、ペットのSFTS発症が報告されました。中にはマダニに咬まれていないにも関わらず、感染した犬の飼い主にも似たような症状が認められ、「犬から人への感染」が成立したのではないかと考えられたケースもあります。(犬と飼い主に濃厚接触があったことや、看護職員に類似する症状が認められたこと、近似する発症時期などから判断)
この感染症に罹ってしまうと、人間・ペットともに発熱・食欲不振や嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状が認められます。また、筋肉痛や意識障害、神経障害なども認められ、入院治療が必要となる可能性も高い疾患です。人の致死率は※6.3%~30%と報告される感染症で、大変危険です。
※引用元:国立感染症研究所 レポート
マダニ予防のため、家族が普段からできること
普段から散歩後はブラッシングを欠かさず、マダニが愛犬の体に付着していないかチェックしましょう。万が一マダニの付着を見つけたとしても、感染症の発生要因となってしまう可能性があるため素手で触るのは危険です。皮膚に咬みついていない場合は粘着性のあるテープなどでマダニを張り付けて除去し、咬みついている場合は、すぐに動物病院で診察してもらいましょう。うまくマダニを引き抜くことができないと、マダニの体の一部が体内に残ってしまい、新たな病気の原因となる可能性があるためです。
予防としては、定期的な予防薬での高い予防効果が認められているため、予防薬の使用が第一となります。逆にいうと、マダニ駆除剤の投薬を怠ることがマダニ寄生の危険性を近づけるともいえます。投与期間は、通年での予防が一番ですが、マダニの活動が活性化する3、4月頃から12月までの予防は必須といえます。
ノミ・マダニ対策製品には量販店で購入できるものから動物病院で販売されている動物用医薬品まで様々な種類があり、効果に違いがあるため、獣医師に処方してもらうのがオススメです。
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